島に呼ばれて -ディープ台湾編3-
写真と文:有村遊馬
うなぎフレーバーのジンに出会ったり(第1話)、「オンラインと屋台で珈琲をお届けする」というRR COFFEEと兄弟みたいな珈琲屋に出会うなど(第2話)、充実した旅路を進めてきた。今このように改めて書くと十分すぎるほど満喫できていたような気がするのだが、その時はまだまだディープ台湾を深掘りしたくてたまらなかったようだ。さらに南部の秘境と呼ばれる地へ歩みを進めた。
ローカル市場で暮らしを覗く
電車に乗り込み、霧台方面のバスへの乗り換え地。出発まで少し時間ができたので、歩いてみた。何やらガヤガヤとした活気を感じた。路上マーケットだ。
どこの国でも、地元の方々が使う、なんでもない市場が大好きだ。旅行者なんて視界に入らない、という感じで活発に飛び交うやりとり。世間話なのか値段交渉なのか。笑ってる人もいれば忙しそうに険しい表情の人もいる。市場はその土地の食事の起点であり、リアルな生活の拠点だと思う。
さまざまな売り物を覗き見ながら歩いていると美味しそうなパイナップル屋が目に入った。灼熱の中を彷徨き、心の中ではもう買う気持ちを固め、カタコトの中国語モドキで話しかけてみた。
「兄ちゃんどこから来たん?日本?ほんまかいな、これあげるから持っていきや!」(意訳)と、優しそうな店番のおばちゃん。
私が「いやいや、ちゃんと払うで!」と返すと、「じゃ〜もう一個おまけにつけたるわ」と勝手に倍増してくれた。謝謝!
気をよくして歩いていると、今度はテーブルいっぱいの肉の塊。
「写真撮ってもええ?」と声をかけると、ノリノリでポーズしてくれたおじちゃんたち。
「今後また来たら飯食いに行くべ!」「日本帰ったら、その写真送ってくれや!」といってメモ用紙に住所を書いてくれた。
たとえ片言でも言葉を交わせると、本当に旅の体験価値が高まる。AI翻訳が発達してもやっぱり言葉の勉強は続けたいと感じる瞬間だ。
山奥の秘境・霧台
バスに揺られ、いよいよ霧台へ。ラカイ族の集落だ。
※一般的にカタカナでは”ルカイ”族と表記されることが多いようだが、自分の耳では”ラカイ”と聞こえたため、その通りに記載する
すっかり奥地に来たという感じがする。至る所にある壁画や民宿の壁に掛かっていた伝統衣装の写真を見ると、やはりここには独自の文化があるのだと気付かされた。
ラカイ族は台湾全土に1.2万人ほどいるらしく、ここにはそのうちの2千人が生活している。学校では中国語とラカイ語の両方を教えているそうだ。名前もラカイ語と中国語の二つ持っているという。
静けさには訳があった
30分程で一周できてしまう、こじんまりした集落はとても穏やかだった。しかし何か様子が変だった。あまりに穏やかすぎたのだ・・・。カフェやご飯屋さんがことごとく閉まっていた。気づけばさっきのパイナップルくらいしか食べていなく、かなり空腹だった。
その中で辛うじて開いていたカフェを見つけ駆け込んだ。山に囲まれた集落を見下ろす、絶景スポットにあった。
そこで店のおばちゃんに聞いてようやく状況がわかった。実は前日が祝日だったため、この日は基本的に台湾中どこもお休みなのだそうだった。泊まれる宿がなかなか見つからなかったのも、そのためだった。
まぁ旅にハプニングはつきもの。むしろどこかでこういうの予期せぬ展開を求めていたまである。とはいえ、お腹が空いていて困った。もちろんコンビニなんてない。このままこの集落を出るまで何も食べられないのだろうか・・
困り果てていると、カフェのおばちゃんが夜用にと、焼きそばみたいな弁当を用意してくれた・・!本来はランチ営業しかしてないお店だったので、おそらくこれは通常メニューではなさそうだった。まさしく救いの神だった。
かつての同僚と、旅の締めくくり
そろそろ旅も終わりが見えてきた。
台北に戻り、かつて大阪で働いていた頃の同僚達との宴だ。共に働いていたのはもう何年も前だが、台北で台湾ビールを囲みながらキャッチアップと昔話ができるのは不思議な感覚だ。
台湾にはこれからまた何回も来るだろうな、という確信と心地よい充実感を持ち帰り、成田行きの帰路に着いた。
(完)